神奈川県内の運送会社が、トラック運転手からの未払賃金請求訴訟で敗訴し、東京地裁から約240万円の支払いを命じられました【令和7年3月27日、東京地裁判決】。
この判決のポイントは、「給与規程で本給と歩合給を定めていたにもかかわらず、実際には歩合給から本給相当を控除していた」という運用上のズレにあります。労働者との黙示の合意があったとしても、就業規則で定めた基準を下回る部分については無効と判断されました。
企業側は「売上の34%を支払っており、給与規程の趣旨に反しない」と主張しましたが、裁判所は「本給と歩合給は独立して定められており、片方からもう一方を控除する規定はない」と退けました。
■人事担当者が見るべき3つの論点
1. 労働条件の明確化
労働契約書に署名がなく、チェックボックスのみで賃金形態を示したことも、トラブルの火種となりました。就業規則や雇用契約の内容を、口頭合意や慣行ではなく、文書で明確に残すことの重要性が浮き彫りです。
2. 就業規則の拘束力と最低基準効
就業規則の記載事項は、労働契約法第12条により「最低基準」としての法的効力を持ちます。会社が思う“実務の柔軟性”と、法律の求める“遵守すべきライン”とのギャップを正しく理解する必要があります。
特に、既に廃止した手当がそのまま残っている、計算方法を既に変更しているが反映していない、という実態があると、会社側の落ち度があるとしてかなり危険です。
3. 業務委託契約への切替えと労務実態
途中から業務委託契約に切り替わったものの、業務内容が変わらなかった点を労働者が訴えた背景には、“見かけの契約”と“実態”の不一致があります。契約形態の変更は、書面だけでなく実態・指揮命令関係・報酬の独立性まで整合させなければ、後の法的リスクをはらみます。
■実務にどう活かすか
今回の判決は、特に歩合制や業績連動型の賃金制度を採用している企業にとって、就業規則と賃金実務の整合性を点検する絶好の機会です。「慣行だから」「今までは問題なかったから」と放置している契約や規程が、数年後に訴訟リスクとして表面化する可能性もあるのです。
貴社の就業規則と運用実態は一致していますか?
「うちは大丈夫」と思われる方ほど、一度専門家の目でチェックを受けてみてください。
三重総合社労士事務所では、IPO準備企業や人事制度再構築に取り組む企業への“規程と実務のギャップ点検”も行っています。お気軽にご相談ください。