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作成日:2024/07/26
日勤と夜勤、どちらの単価を割増賃金計算の起訴として算定するのか?(社会福祉法人A会事件)

この事件の概要は、会社(被告)の従業員として勤務していた労働者(原告)が、被告に対し、労働基準法(以下「労基法」という)37条の割増賃金請求権に基づき、平成31年(令和元年)2月から令和2年11月までの夜勤時間帯の就労にかかる割増賃金不払いと付加金を求めた事案です。

第1審の千葉地方裁判所は、
本件雇用契約においては、基本給のほかに、1日当たり6000円の「夜勤手当」が支給されていたほか、基本給の6%に相当する夜間支援手当が支給されていたこと、夜勤時間帯については実労働が1時間以内であったときは夜勤手当以外の賃金を支給しないことが就業規則及び給与規程の定めにより労働契約の内容となっていたものと認められる。そして、このように1回の泊まり勤務についての賃金が夜勤手当であるとされていたことに照らすと、夜勤手当の6000円は、夜勤時間帯から休憩時間1時間を控除した8時間の労働の対価として支出されることになるので、その間の労働に係る割増賃金を計算するときには、夜勤手当の支給額として約定された6000円が基礎となるものとし、また、夜勤時間帯が全体として労働時間に該当するとしても、労働密度の程度にかかわらず、日中勤務と同じ賃金単価で計算することが妥当であるとは解されない等の理由から、被告における夜勤時間帯の割増賃金算定の基礎となる賃金単価は「750円」であると認めるのが相当であると判示しました。なお最低賃金に係る法規制は全ての労働時間に対し時間当たりの最低賃金額以上の賃金を支払うことを義務付けるものではないから、泊まり勤務に係る単位時間当たりの賃金額が最低賃金を下回るとしても、直ちに泊まり勤務の賃金額に係る合意の効力が否定されるものとは解されないとしています(千葉地裁判決 令和5年6月9日)。

しかし、第2審の東京高裁は、一審判決を大きく変更し、一審の千葉地裁の夜勤時間帯の全体が労働時間に当たるとしたうえで、夜勤手当の支給実態に鑑み、1回の泊まり勤務の単価を6000円とする合意があったことを認めず、夜勤時間帯が労働時間に当たることを前提とした特段の賃金合意は認められないとして、基本給などが算定基礎になると判断し、割増賃金の算定基礎は、基本給、夜間支援体制手当、資格手当になるとして、未払割増賃金312万9684円と同額の付加金など計644万5473円の支払いを命じました。
東京高裁は、夜勤時間帯と日勤時間帯の時間給に差を付けることは、一般的に許されないものではないが、「そのような合意は趣旨・内容が明確となる形でされるべき」と判示しています(
東京高裁判決 令和6年7月4日)。